タワーマンションの売買価格と相続税評価額の差を活用して節税効果を狙う「タワーマンション節税(以下、タワマン節税)」。しかし、令和5年の税制改正大綱によって、この節税方法が改正されました。具体的には、マンションの評価額に乖離率や評価水準が導入され、評価額の計算方法が変更されました。この記事では、タワマン節税に関する改正内容や評価額の算出方法について詳しく解説していきます。
タワマン節税とは
タワマン節税とは、タワーマンションを利用して、相続税の対象となる財産の評価額を実際の時価よりも大幅に低く抑え、節税を図る手法です。相続税は累進課税制度が採用されており、財産が多いほど税率が高くなるため、相続税評価額をいかに低くするかが節税のポイントとなります。
不動産の相続税評価額は、時価の7〜8割程度で計算されることが一般的です。例えば、現金2億円をそのまま相続する場合、相続税評価額も同額の2億円となりますが、その現金でマンションを購入した場合、マンションの評価額は1.4億円から1.6億円に抑えられることが多いです。このため、現金を相続するよりも不動産を相続する方が、相続税額を軽減できる可能性があるのです。
特にタワーマンションの場合、その特性から、通常のマンションよりも大きな節税効果を生むことができたのです。
タワマン節税の仕組み
・タワーマンションの土地に多くの戸数を有している
タワーマンションは高層建築で縦に長い構造になっているため、敷地あたりに多くの戸数があります。そのため、1戸あたりの土地の持ち分が少なくなり、その結果、土地の相続税評価額が低く抑えられます。
・高層階の市場価値が高い
高層階になるほど日照や眺望が良く、人気が高いため市場価値が高い傾向があります。しかし、相続税評価額は同じ面積であれば階数に関係なく計算されるため、実際の市場価値と評価額に大きな差が生じることがあります。
このような特徴により、タワーマンションでは市場価値と相続税評価額に乖離が生じ、特に高層階を購入する富裕層にとって有利な節税効果が得られる仕組みとなっていました。
税制改正の背景
タワマン節税のルール変更の背景は、時価との大きな乖離の是正、課税の不平等などの解消です。既存の評価方法では、マンションの相続税評価額と時価に大きな乖離が生じているケースが確認されていました。
特に、その乖離は高層マンションになればなるほど顕著で、相続税評価額が時価の3割程度になるケースが散見されました。
そのため、新たな評価方法が導入され、税制の公平性が強化されることになりました。
改正による評価方法の変更点
タワーマンションの評価額をより実態に即したものにするため、税制改正では新たに「乖離率」と「評価水準」という指標が導入されました。これらの指標により、タワーマンションの市場価値がより適正に反映されるようになります。
新しい評価額の計算式は、以下の通りです。
現行評価額 × 評価乖離率 × 評価水準(最低0.6)
※「0.6 ≦ 評価水準 < 1」であれば従来の評価額計算
この計算式により、タワーマンションの評価額が市場価格により近づき、過度な節税効果を抑えることが狙いになります。
評価乖離率
タワーマンションの相続税評価額と実際の市場売買価格の差が大きいことが、これまで問題視されてきました。そこで、市場価格と相続税評価額の乖離を表す指標として「評価乖離率」が導入されました。
【評価乖離率の計算式】
実態と計算値に大きな差が生じないよう、実際の計算方法としては、マンションの評価に大きく左右する下の(1)〜(4)の要素が含まれます。
(1)×▲0.033+(2)×0.239+(3)×0.018+(4)×▲1.195+3.220
(1)築年数
マンションの築年数が新しいほど評価乖離率は低くなり、古い場合は高くなります。築年数が増加すると評価乖離率がマイナス方向に影響します。
(2)総階数指数(総階数÷33)
高層建築物における階数の影響を補正する指数で、高層階ほど評価が高い傾向にあるため、総階数指数が高いほど評価乖離率は高くなります。 なお、マンションの総階数を33で割った値が1.0を超える場合は1.0になります。
(3)所在階
評価対象となる部屋の所在階のことで、高層階の部屋ほど評価が高いため、所在階が高いほど評価乖離率は低くなります。
(4)敷地持分狭小度
一室の利用権の面積を専有面積で割った値で、敷地持分狭小度が高いほど、一室あたりの所有権の割合が低くなり、評価乖離率は高くなります。
評価水準
新たな評価方法では、相続税評価額が市場価格と大きく乖離しないようにするため、「評価水準」という指標が導入されました。評価水準は市場価格に対する公平な評価を実現するためのもので、評価水準の計算には前述した評価乖離率を用います。
評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率
評価水準 > 1
現行の相続税評価額が市場価格よりも高い場合。
0.6 ≦ 評価水準 ≦ 1
相続税評価額が市場価格とほぼ同じ場合。
評価水準 < 0.6
相続税評価額が市場価格よりも大幅に低い場合。この場合、最低評価水準の0.6が適用されます。
これにより、相続税評価額が市場価格に大きく乖離することが抑制され、適正な税負担が確保されます。
実際の計算例
では、タワーマンションの評価額を実際に算出する流れを具体的な例を使って説明します。以下の条件に基づいて計算します。
【前提】
現行の相続税評価額:8,000万円
マンション築年数:10年
総階数:40階
部屋の所在階:25階
敷地面積:5,000平方メートル
敷地権割合:1/100
専有面積:50平方メートル
【計算】
評価乖離率の算出
各要素を評価乖離率の計算式に当てはめます。
築年数=10年、総階数=40階 ÷ 33 = 1.0、所在階=25階、敷地持分狭小度=1
計算式に当てはめると、評価乖離率は約2.384となります。
評価水準の算出
評価水準は、1 ÷ 乖離率の計算式に当てはめます。
1 ÷ 2.384 = 0.419463
評価水準が0.6未満のため、0.6が適用されます。
相続税評価額の算出
現行評価額 × 評価乖離率 × 評価水準 の計算式に当てはめます。
8,000万円 × 2.384 × 0.6 = 11,443.2万円
この結果、評価額は約11,443.2万円となり、現行の評価額との差は約3,443万円です。
適用時期
タワーマンションに対する新しい評価額は、令和6年1月1日以降に相続または贈与によって取得するマンションに適用されます。この日以降、改定された評価方法に基づいて、タワーマンションを含む不動産の評価額が計算されることになりました。
おわりに:タワマンの相続は今までより慎重に!
タワマン節税に限らず、不動産を活用した相続税対策は金額的にインパクトが大きく、慎重な対応が必要となります。
判断が難しい内容については、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
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